東京高等裁判所 昭和57年(う)1523号 判決
被告人 山口夘之松
〔抄 録〕
論旨は、事実誤認の主張であって、要するに、被告人が本件宝石の代金支払にあてるため自己の経営する日本園芸総業株式会社の約束手形を振出した当時において、同社に右手形を決済する能力のないことを被告人が認識していたことは確かであるが、被告人はその決済が不可能であるとまで確定的に認識していたわけではなく、未必的に認識していたにとどまるから、本件詐欺の故意は未必的なものというべきであるのに、原判決がこれを確定的なものと認定したのは事実誤認である、というのである。
しかしながら、犯罪における故意が確定的なものか未必的なものかは、当該行為が犯罪を構成するものであることを確定的に認識していたか未必的に認識していたかによって決せられるのであり、詐欺罪における故意が確定的なものか未必的なものかも、当該欺罔行為により物を騙取するという結果を生じさせることを確定的に認識していたか未必的に認識していたかによって決せられるのであるから、物を騙取することを意図して欺罔行為に出たときには、確定的な故意があったというべきであって、欺罔行為の内容をなす事実の発生が確定的なものであったか否かは、その事実が欺罔行為を成立させるか否かに関係するにとどまり、詐詐罪の故意が確定的なものであったか否かとは無関係である。したがって、本件の場合、被告人が宝石代金の支払のために振出した前記会社の約束手形につき、その決済の可能性がかりに所論指摘のとおり皆無でなかったとしても、その可能性がほとんどなかったことが明らかである以上、手形が確実に決済されるものと相手を誤信させるような言辞をもって宝石の買入れを申込む行為は欺罔行為を構成することが明白であり、また、被告人が宝石を騙取するという結果を確実に生じさせることを意図してその欺罔行為に出たことも明白であるから、原判決が被告人に詐欺罪の確定的な故意があったと判示したのは正当である。
(桑田 香城 植村)